2つの映画「スティーブ・ジョブズ」について考える

ジョブズの死後、伝記を元にした映画が2本作られた。

先に公開されたのがアシュトン・カッチャー主演のこちら

私が先に見たのもこっちで、天才性を担保するエキセントリックなジョブズを描いており、まぁジョブズファンの想像するジョブズ像である。昨今の伝記映画にありがちな徹底的なモノマネ要素(よく言えば役作り)も実装してある。
「私はジョブズファンだから、ジョブズが聖人で無いことも知ってますよー」というエクスキューズを引き出すような、いい意味でも悪い意味でも安全な作品である。

正直、この映画を見たあとには、もう一つの作品に期待する事は無くなっていた。伝記映画というものはファン(あるいは信者)を満足させるための道具に過ぎないのでは無いだろうかという考えに至った。

しかしながら、こっちの作品は監督ダニー・ボイル、そして脚本アーロン・ソーキンである。やはりというか嬉しい誤算と言うか、こちらは完全に自分のツボを突いた。

アーロン・ソーキンは一般に「ソーシャル・ネットワーク」の脚本として紹介されるが、自分にとっては「ザ・ホワイトハウス」や「ニュースルーム」などの珠玉の海外ドラマの脚本であり、それらにこそソーキンの真骨頂である「セリフの詰め込みの妙」があると思う。

この映画でもその「セリフの詰め込み」は存分発揮されており、時として口論になりがちな台詞回しが、演劇調に構成された舞台と時間軸にぴったりマッチしており、「ソーシャル・ネットワーク」や「マネーボール」よりもアーロン・ソーキンファンを大変満足させるものになっている。
「どっちのアンディ?」ネタを繰り返すのもソーキンっぽい。

アマゾンの評価では前者のほうが星の数が多くなっており、ダニー・ボイル版(人によってはアーロン・ソーキン版)には取り付くしまもないほど否定的な意見も多い。

ダニー・ボイル版の方は娘のリサとの関係が焦点であり、そのリサへの態度は天才鬼才だから許されるというレベルを超えており、人として病的なレベル。もちろんラストのカタルシスへ向かう流れでもあるのだが、そこに至るまでの空気の悪さに嫌悪感を持つ人も多いのであろう。

映画史的に見ればどちらの作品も「凡作」というジャッジをくだされるのだろうが、「ソーシャル・ネットワーク」にイマイチ感を抱いていた古参のアーロン・ソーキンファンとしては絶対に見るべき作品であり、初めて満足のいった映画ではないかと思う。

余談だが、最初にジョブズ役にキャスティングされてたのがクリスチャン・ベールと聞いて、マイケル・ファスベンダーがよく似てるので、顔で選んでるというか制作側の想定する顔のイメージに当てはめてキャスティングするもんなんだなと、裏側を見たような気がした。

スカリー役のジェフ・ダニエルズは「ニュースルーム」のウィル・マカヴォイである。「ニュースルーム」も海外ドラマブームの流れの中でもっと評価されるべき作品だと思うが、日本語版のDVDも出ていない。今見たらHuluにはあったので、見てない人は見ろ。

どちらに重きを置いて語るかは明らかであり、つまりは自分にとって映画「スティーブ・ジョブズ」はアーロン・ソーキン版の一本だけなのである。

あと、ジョブズと海外ドラマと言えば「バトル・オブ・シリコンバレー」なのだが、それはまた別の機会に。