他人の恋の話

彼は北関東のI県出身の大学1年生。高校時代は野球の名門校で野球に明けくれた。
野球選手としての人生には見切りをつけ、大学に進む。そんな彼に大学入学一ヶ月目にして彼女ができた。同じクラスのスラっとした美人である。
彼女は東京の私立の有名高校出身で高校時代は文化系クラブで活動しそれなりの結果を残した。

大学生活のスタートしては理想的である。授業が終わると彼の部屋でイチャイチャし、腹がへると彼から借りたラフな服で手をつないでコンビニに行き、空腹を満たすと性欲を満たす。彼女は家に「友達と大学の課題をやるから泊まる」と連絡し、同じベッドで眠る、絵に描いたような大学生である。いや、多くの大学生が望みながら、それを得られる人間は少ない。

さて、この生活、いつまで続くのであろうか。彼は人生の大半を野球で過ごした。その彼が野球に見切りをつけた。見切りをつけたら可愛い彼女が手に入った。これは幸せな物語である。だが、彼からスポーツを取ったら、いったい何が残るのか?愛読書はジャンプで、聞く音楽はAKB。ごく普通の高校生から大学生になった、いや、普通と呼ぶには「退屈」「凡庸」である。

いったい彼女は彼のどこを好きになったのか。都会の女が地方出身の野球少年の「純粋さ」に好感をもったのか。彼は少年の面影を残すそこそこはっきりした顔立ちにスポーツ選手らしい浅黒い肌で、恋愛対象としては悪くない。彼は優しい。いつも自転車で駅まで送り迎えしてくれて、おそろいの浴衣を着て花火を見に行ってくれ、生まれ育ったI県も案内してくれた。

しかしこの恋は終わるであろう。彼女は年上のいけ好かない男に寝取られるであろう。おそらくバイト先の先輩で、ビレッジバンガードワールドミュージックのコーナーを散策するような男。野球少年の対局にいる男。そして野球少年は人生の唯一であった「彼女」を失う。

これはバッドエンドを望む観察者の妬みであろうか、それとも世界の不幸な道理であろうか。

さてここで話は大きく変わって「梅ちゃん先生」である。梅子は最終的に幼馴染のノブと結婚した。野球少年とノブがダブる。優しくて純粋なノブ。同僚の医者の松岡ではなく、ノブ。NHKの朝ドラというファンタジーの世界ではノブを選んだヒロイン。そこには現実にない夢物語がある。